ネタのような

経験て、誰しもありますよね。痛管自認のオイラは数多く有ります。で、数日前の学校敷地内で拳銃自殺ちゅうNewsと腹下しで思い出したんです。中学生の頃の出来事を。
俺は夕方から熱を出していた。どうにも具合が悪く、しかし当時我が家は色々と事情があり、薄暗い部屋でタダ独り横になっているしかなかったのだ。厨房だしな。そして夜半になって俺は、いつの間にやら在宅していた親父と姉貴とを這いずって行って起こした。尋常でない腹の痛みに、
『救急車呼んだら、やっぱ嫌か?』
と訊きに行ったのだ。一軒家とはいえ団地内、家族ふたりは思った通り拒否。人でなしの家族はヒトデナシ。まあいい。そこから1時間以上を経て、親父の車でとある小さな病院の救急外来に掛かることとなったのだ。
永遠とも感じる当直医を待つ間、既にまともに立てなくなった俺は非常灯に照らされたベンチで微動だにできない。無口で無慈悲な親父も流石に心配になったらしく、脂汗にまみれた俺の傍にしゃがみ込んで幾度となく声をかけてくる。
と、ひとの気配に親父が立ち上がった。痛みに翻弄されているとはいえ待ち焦がれた医者かと、俺も目を瞑ったままそちらに意識を向ける。妙に騒がしいそいつはなかなか近づいて来ない。親父、俺を残して廊下の先へと移動。医者とは逆。何だ、小便か?
薄目を開けてみると親父の姿は視界から完全に消えていた。冷てぇな。俺は自分がいる救急外来ブースの前廊下、救急車が付くドア方向を見た。目を疑った。
そこには大門軍団がいた。(若い人分からんかも知れんが、西部警察のアレ)
マジ苦しむ俺を捨て置いて親父が無言で逃げた原因は、ダブルのストライプスーツに夜中のグラサン集団だった。当然アロハの襟は出している。見るからにイラつき殺気だったその数、十人前後。彼らの金鎖の総重量は1kgを越えているであろう。
直後、音を消した救急車が滑り込み観音開きのドアが開く。あぜんとしつつも身動き叶わない俺の目前をストレッチャが猛然と通過。救急隊員・看護師・大門軍団の半数が添っていた。ヒィ〜、俺の足元に血がボトボト。処置室内から響く看護師の金切り声、
『先生っ!この人の頭、穴空いてるっ!!
……え゛?何ですとーっ!?
この小さな病院の院長らしき、もうひとり現れた人物を軍団残りが取り囲む。一番貫禄あるヤツがグラサンかなぐり捨てて白衣の胸倉を掴みあげ、
『おい、どうなんだよセンセイっ!!オヤジは助かんのかよっ!!?』
……いや。素人見立てでもムリだと思います。でもそーゆうのは俺の足踏んだままやらかさないで欲しいんです、団長。とっても緊急事態だとは承知してますが、今ならアナタがたの邪魔することなく他所の病院に行けそうなんです――
黎明の頃になってやっと存在認識された俺は、ナントカ腸炎とやらで入院した。翌々日〝暴力団組長、病気を苦に拳銃自殺〟という新聞記事を齎したのは、あれから初めて顔見た親父(もちろん俺の)。穴ではなく孔だった訳だ。
そして退院間際の俺の病室に巨大な見舞い(詫び?)の花を齎したのは、組の新オヤジであった。肉親より義理堅い。