711、0400

 都内ナンバーベンツ、リアウィンドに日章旗のステッカー貼った車から降り立った人物は、四十がらみのとがったグラサンかけたオッサン。よれてはいるが田舎に似合わぬ着崩しダークスーツ。眼鏡なきゃ「山岡サンですか?」と問いたくなるほど似ていた、格好は。
 周囲の風景から成層圏あたりまで浮いたこいつと相前後して店内へ。
 煙草とビールを手に通常コースをスムーズに辿った俺のあとを、何の商品も物色せずにオッサンがついて来る。ついて来るといってもベッタリではないので声も掛けられない (てか、如実にアレです。こちらからはゼッタイに関わり持ちたくないタイプです)。
 いつもは数分ダベる馴染みの店員ニィちゃんも沈黙。こんな空気の張り詰めたコンビニは初めてだ。きっと強盗に遭ってる真っ最中の店の次の次ぐらいにヤな雰囲気。レジの彼と目だけで会話し、その不安げな視線を背に外に出た。極力何気ない風を装って車へ急ぐ。気持ちはダッシュ。ポケットのキーは汗かいてる。


 「おい、そこの」


 当然ながら間に合いませんでした。『そこの』ってなんだよ!とか思わない事も無かったけれど。
 それよりも (やっぱキタ━━!!!!) ってカンジでしたよ。もうね、動きがあからさまだったし。
 そりゃあこちとらしがない新聞店バイト、そんなに若くもないもので、別にガン飛ばしたりは決してしてないつもりです。が、寝不足時の目付きの悪さと通常時の素行の悪さは定評があるんで、覚悟はしておりました。ハイ。


 「それ、朝っぱらから飲むんかい?」
 「え、あ、いえ。夜、とか……」(大嘘;)


 とか言いながら距離を詰めないで欲しい。いきなり手は出さんとおもうが。そんなにジロジロ観察しないで欲しい。俺はまともに目を見返すクセがあって、みつめ合うふたりになってしまう。キモ。
 お膚は定番夏ミカンではなく、わりとキレイだったが。


 「そうか。――今から飲みに行く気ないか?」
 (ええ、だから今でなく……
はい!?)
 

 あさの四時でつ。ここがド田舎というのを度外視してもフツウじゃないでつ。


 どうやって振り切ったのか定かでない。
 「子供…息子、学校…」などと事実だが池沼めいた発言で以って、いやにカネのかかったっぽい名刺を断ったのは覚えている。頭の中では『腎臓は石入ってるし肝臓は硬くなってます』とか、『それとも〝超フテキセツナカンケイ〟方面か?(あ、こりゃヒトは責められん)』とか、『いやいや、こいつは単なるさみしん坊、ヤ○ザだって淋しいと生きては(ry』等々が、もの凄いイキオイでループしてた。


 これね、本当に今朝のハナシ。約四時間前。
 ここんとこ続く (あとでネタになるが進行形ではマジびびりな) 不可思議体験も、まさかここまで来れば打ち止めだろう。


 ボクは、もう、パトラッシュより疲れたよ……。


 同居人らに戒厳令発令。起こしたら殺す宣言ふたたび。どうしようもなく目が覚めてしまった気もするが、科学のチカラと自然の恵みに身を任せ、俺は寝る